田中淳夫

スギは、日本では屋久島から青森までたいていの山に生えている(植えている)。だから身近に感じるが、実はヒノキ科スギ亜科スギ属に属する日本だけの固有種である。その点からは、スギ花粉症は日本だけの現象なのだ。最近はヒノキ花粉症も増えているが、ヒノキもヒノキ科ヒノキ属に属して、分布するのは日本と台湾だけとされる。スギ(とヒノキ)花粉症は、世界的にはごく狭い範囲でしか起こっていない珍しい症状のようである。 スギと名のつく樹木は世界中にあると思う人もいるかもしれない。有名なのはレバノンスギやヒマラヤスギだろう。ほかにも正式名称ではないが、ベイスギと呼ぶ木もあり、英語のシーダー(シダー)はスギと訳されている。しかし、ヒマラヤスギやレバノンスギは、マツ科の樹木である。ベイスギとも呼ぶウェスタンレッドシダーは、ヒノキ科クロベ属。ちなみに中国で杉と記すとコウヨウザンを指し、日本では中国杉と呼ぶが、これはヒノキ科コウヨウザン属だ。単に日本人が「~スギ」と名付けただけなのだ。当然、花粉もスギとは全然違う。むしろ海外ではシラカバなどカンバ類や、ポプラ、クリ、そしてブタクサなどの花粉による花粉症が問題になっているらしい。 スギばかりを悪役にするのではなく、なぜ自然物である花粉が、人体(とサル)に花粉症を引き起こすのか、そのメカニズムに眼を向けた方がよさそうだ。